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| 精進料理のこころ 1 2 3 4 5 | ||
| 1 道元禅師と典座教訓 | ||
| 永平寺の開祖、道元禅師(どうげんぜんじ)。鎌倉仏教の項で歴史の教科書にも登場するため、ほとんどの方がその名を聞いたことがあるでしょう。 しかし、道元禅師が『典座教訓(てんぞきょうくん)』という書を著し、「食」に関する金言を示されたことは、一般にはあまり知られていないようです。 「典座(てんぞ)」とは、禅寺において「食」を司る重責を担う役僧のことです。その典座職の行うべき職責を、非常に細かく丁寧にお説き下さったのです。 今から750年以上も前に、一宗の開祖が、これほど親切に、また細やかに「食」について説かれたことに驚きと感動を覚えます。 典座ネットでは、食乱れる現代にこそ、あらためてこの名著を広く世に薦めたいと願って、サイトを運営しております。 ○「食」を重視した道元禅師 1200年、京都で生を受けた道元禅師は、幼くして両親を失い、世の無常を感じて出家されました。 当時の日本仏教界での修行に満足できなかった道元禅師は、真実の仏法を求めて中国(宋)に渡られました。 そして道元禅師はその正伝の仏法をわが国で布教すべく、1233年、京都の宇治に興聖寺(こうしょうじ)を建立しました。 1235年には僧堂(いわゆる坐禅堂)が、36年には法堂(説法のための伽藍で、一般の寺で言えば本堂にあたる)が建設されました。 着々と伽藍の整備が行われ、布教の基礎がととのう中、1237年に著されたのが『典座教訓』です。道元禅師は非常に多くの著書を遺されましたが、『典座教訓』はいわば初期の著述ということになります。 このことからも、道元禅師がいかに「食」を重視していたかをうかがい知ることができます。 世間一般では、新しく会社を設立したら、まずは仕入れ先や顧客の確保というような、すぐに良い結果に結びつく方面に力を入れるのが通常だと思います。取引よりもまず社員の健康を考える経営者はそう多くないでしょう。むしろ食事や睡眠の時間を削り、健康面で多少の無理をしてでも、頑張って働きなさい!という考えが一般的ではないでしょうか。 このように、世間では「食事なんて後回しだ!」と軽視しがちな「食」を、あえて最初から重視した点が、道元禅師の偉大なところだと思うのです。 実は、長い目で見れば「食」をおろそかにしては良い修行も、良い仕事も成り立ちません。確かに、数ヶ月とか数年くらいの視野で見れば、食事の時間や内容を犠牲にして、仕事を優先した方が効率的かもしれません。 しかし、長い人生で考えれば、目先の利益のために体に無理を強いたのでは、いつか必ずそのツケが回ってきます。健康に害が出てから気づいてももはや遅いのです。 ○宋における名典座たちとの出会い とはいえ、実は道元禅師自身も、宋に渡るまでは「食」に対して誤った認識を示しておられたことを自省されておられます。 『典座教訓』に以下のようなエピソードが記されています。 道元禅師が宋の港に到着し、上陸許可がおりるまで船に留まっていたときの話です。 お年を召した中国の僧侶が港にやってきました。老僧は修行道場の食事係(典座和尚)で、うどんに使う食材を買いに来たのです。道元禅師はその僧侶と仏法の話がしたくて、今日はここに泊まっていきませんかと誘いましたが、老僧は、食事の準備があるからとそれを堅く断りました。 道元禅師は言いました。「そんな食事の用意などは新入りの若い者にでもさせれば すると老僧は大笑いして、 「日本の若い人よ、あなたは修行とは何であるかが、全くわかっていない」と言い残して帰ってしまったのです。 それもそのはず、当時の日本仏教界には、日常の実践を重視する禅の考えは充分につたわっておらず、したがってこの時点ではまだ道元禅師自身、食事の用意などは、修行の妨げになる面倒な雑事だと思っていたのです。 この後、道元禅師は中国各地の道場を訪ね、修行を重ねます。またある寺でこんな事がありました。 暑い日の昼間、腰の曲がった老典座が、杖をつきながら汗だくになって本堂の脇で海藻を干していました。みかねた道元禅師が、 「こんな暑い日ですから、誰か若い人にでもさせるか、せめてもう少し涼しい日にしたら良いのでは」と声を掛けると、 「他(た)は是吾(これわれ)にあらず 更(さら)に何(いず)れの時をか待たん」 (他の者にさせたのでは自分の修行にならん、今せずにいつするというのだ) と返され、再び大きなショックを受けたというのです。 こうした宋での体験は、道元禅師の仏法に対する認識を根底からくつがえすほど衝撃的であったと思われます。以降の道元禅師の思想形成に少なからぬ影響を与えたといって良いでしょう。 こうした背景のもとに著された『典座教訓』の内容を次頁にて紹介することにいたします。 |
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